夏目漱石とヘーゲル 『教育哲学ノート』より

 夏目漱石の文学は登場人物の心理描写が極めて巧みな論理で構成されている。ヘーゲルの『精神の現象学』の論理は『大論理学』が土台になっている。筆者はヘーゲル精神の現象学』の「自己意識」を中心に夏目漱石の文学を読み解いていこうと考えた。「自己意識」の中には頭蓋論も盛り込まれている。
 ヘーゲルが生きていた時代はカントが生きていた時代と重なる。この記述に関してはローゼングランツの『ヘーゲル伝』やジャック・ドントの『ヘーゲル伝』を参照してみないと解らない。また、夏目漱石の生きていた精神的土壌とヘーゲルが生きていた精神的土壌は今日の精神的土壌と比べるとかなり近いものであると言っても言い過ぎではないのかもしれない。
 夏目漱石ヘーゲルも大学教師であり、精神的土壌を肥やし続けた人間である。今日の日本の精神的土壌からみれば「理解し難い」と思われる部分も多いかもしれないが、その精神的土壌の豊かさも考慮してみると文学や哲学の研究上にくんでもくみつくせないものがある。