♯(シャープ)悪魔の脳内コンミュータ

 バイオリンは<開放弦の練習>と<移弦の練習>と<音階の練習>が組み合わさるとはじめて『キラキラ星変奏曲』や『ちょうちょう』などの課題曲に取り組むことができる。私は阿呆なので音符をなかなか覚えない。楽譜の音階を歌でおぼえるという変則わざをつかっている
♪ド・ド・ソ・ソ・ラ・ラー・ミー というように口ずさむ
レッスンが始まる前に歌で音階を叩き込むのである。しかしこまったことに♯(シャープ)の概念がまだ定着しておらず、こまっている。バイオリンの音階は指の押さえる位置で規定されれしまうので中指の位置がすこしでも規定されている位置から<ずれ>ると正しい音階を引くことができない。レッスンではいつも先生がピアノの音階を手がかかりにしてバイオリンの音階を厳密に規定している。
 バイオリンは湿度と暑さにきわめてよわく夏はとくに音階が狂いやすい。先生はレッスンが始まる前に私のバイオリンの弦を丁寧に調律してくれる。指の運動に<気>をとられるととんでもないことになる。眼の前の楽譜の♪をわすれてしまうのでまいってしまう。カードがあたえられて音階を記憶するようにと指示がくだされているが、怠け者なのでなかなか覚えないそのためにレッスンにおいてカードで「これはどの音のどんな弦をひくとなりますか」という問いに音階を口で答え、実際にバイオリンでひくことがスムーズにできないのである。
 実際の上記の『キラキラ星変奏曲』の導入部分では♯がつく音階の練習>で脳内のコンピュータに概念規定を厳密に規定しておかなければ、♯では<音階の練習>における規定が微細にずれていくので引くことが困難になっていく。「基礎である曲の『キラキラ星変奏曲』や『ちょうちょう』では隣り合った弦の音階の移行で楽曲がなりたっているために<かんたん>である」と先生はおっしゃるのだが、楽譜が読めないので私には<困難の極み>である。

 11月には発表会がありますのでと受胎告知をされたが、<無理なおとぎばなしである>とあきらめている。当日の発表会ではモーツァルトが書いた『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』とブラームスの書いた『ハンガリー舞曲』などを先輩諸氏方が演奏するらしい。CDで聞いてみるとモーツァルトは眠れそうな曲だが、ブラームスは踊れそうな曲である。

 最近、『くるみ割り人形』の一幕の前奏の
♪パン・パ・パ・パ・パ・パ・パ・パ〜ン・パン の部分を聞くだけで猛烈な頭痛におそわれるようになった。
 少女はくるみ割り人形がメタモルフォーゼした王子に恋に落ちる。その過程にはロゼッテルマイヤーというオッサンの執事とへんてこりんな人形の踊りを幻想世界のなかで椅子にすわって見つめている。すべては夢の中であり
起き上がるとすべてが終わっている。
クリスマスのサンタのプレゼントのくるみ割り人形がぽつんとクリスマスツリーのしたにおかれている
ことで
「あ〜これは夢なんだけどそ〜でもないな夢と希望なんだ」と
少女は淑女になる。ロマンティックなアニムスであろう。

補遺
くるみ割り人形』1拍分ぬけていたことをおわび申し上げます。