『DIVE!!』

瞬間視力の概念はこの映画で学ぶことができた。高さ10mからの飛び込みは「怖さ」との戦い。水面がゆらゆらとゆらめいているのも競技者の心理的負担を軽減するためなんだそうな。高飛込みほど「丘の上の水訓練」が必要なスポーツはない。<まっすぐに立つ>ことができならければ、飛び込み台に立つことができない。若人たちは<まっすぐに立つ>ために身体を鍛える。
 しかも、倒立からの入水もあり倒立からの入水はより<まっすぐ立つ>ことから基本に忠実でなければならない。ひねりわざや回転系のわざ、さまざまなわざがカテゴリー化されており選手は基本わざをマスターしたうえで高度なわざに位相を変化させていく、わずか数秒のせかいに3回転半えびぞりやスワンダイブなどあざやかなわざをくりだす。そして、入水の瞬間にはなるべく<水しぶき>をたててはならないという規則もあるので難しい。低い高さの飛び込み台から飛んで心理的に<慣れてきたら>より高い飛び込み台に移行していく。
 否定し否定しそしてあらたな「自己」をみいだしていく過程で、大人に少年は青年へとメタモルフォーゼしていく。わずか2秒の世界で入水姿勢を一歩まちがえれば、失神してしまう「怖い」スポーツなために周囲の配慮は欠かすことができない。個人競技はその「のめり込み」を見守ることの必要性から倫理が問われる。主観と客観の世界に微細な問題が介入するとき「間主観性」が射程にはいる。主観と客観からはどうも<噛み砕くことができない>問題が入り込むのである。
 はたしてあの演技は<美的であったのか>そうではないのか、あるいは演技中に<つま先>や指先がのびているのかいないのかそれではたして<美的であったのか>と規定して善いものなのか、現在のわざの規定をみていないのでわかりかねる。